奨学金という名の教育ローン事業を公的機関が運営する意味について考える -その3
繰り返しになるが、利潤拡大をその本質的な生業として期待されない日本学生支援機構が運営する奨学金事業は、民間企業には担うことが難しい部分にのみ特化して運営するべきである。
まず、民間で担える分野にまでわざわざ手を広げる必要はない。民間に任せられる事業は民間に任せた方が効率的に事業運営なされるのは自明だ。民間の場合は非効率な事業体は倒産や事業撤退という形で市場から淘汰されるためだ。
次に、年々日本国の財政状況が厳しさを増す中、多額の貴重な税金を前提に事業運営されている日本学生支援機構の税金負担割合を減らすべきという社会的圧力は今後高まってくると思われる。平成30年度計画予算によると、収入総額約2兆円のうち、過去奨学生からの返還金と貸付金利息と寄付金、雑収入が占める割合は9,000億弱である。これはつまり、本機構の事業運営のためには、1.1兆円という巨額の公的資金(つまりは税金)が必要であることを意味する。
(日本学生支援機構ホームページより。ここで「借入金等」、「運営費交付金」、そのほか各種補助金の原資はすべて税金である)
日本学生支援機構が行う事業範囲は、「公の機関にしか行えない最小最低限の部分」に残すべきなのだ。
本来公的機関として運営されるべき奨学金事業のあり方とは?
以下、1. 給付型奨学金事業、2. 無利子型奨学金事業、3. 有利子型奨学金事業の3つの観点で、日本学生支援機構の事業のあり方を考えたい。
給付型奨学金事業は現状機構が運営している規模と同等レベルで継続する。
極めて頭脳明晰で、かつ大学・大学院での学業を継続したいと考えている優秀な高校生が、家庭の経済状況により進学を断念するというのは、その学生にとって不幸なだけではなく、日本国としても大きな損失である。そのような若者の学業継続を支援することで、長い目で見た国の将来の発展にもつながるので、積極的に日本学生支援機構が給付型奨学金を提供することで、関与/支援するべきである。
勿論国の厳しい財政状況を踏まえ、給付対象となる条件も厳しくあるべきだ。給付条件として、以下3点を挙げたい*1。
- 旧帝大 & 一橋/東工大レベルの国立大学の入学試験に合格できるだけの学力を有すること
- 家庭の経済状態が平均を大きく下回っていること(源泉徴収票などで審査)
- その高校生が高い志、学業を継続したいという強い意志を持っていること(面接、小論文で審査)
無利子型奨学金事業は、規模を大幅に縮小して継続する。
無利子奨学金事業受給対象をすべての大学、専門学校とするべきではない。その基準は偏差値*2でもよいし、奨学金延滞率*3でもよいと思う。
以前投稿したように、大学進学のROIが低下した今、借金をしてまで「ただ何となくモラトリアムとして」とか「大卒の資格が何となくほしいから」とかいう理由で大学に行くべきではない。日本学生支援機構という公的な機関が、「学生がどんなときでも安心して学ぶことができるう、必要なサービスを提供していくこと」という聞こえのいい言葉の下、高校生に「ただ何となく大学に行く」などという愚かな選択をすることを助長させる仕組み(無利子奨学金)を継続する必要はない。
最低線まともな大学に入学する努力をしたものに無利子奨学金の対象を限定することは、奨学金回収率がアップすることが期待できるだけでなく、多額の奨学金負債を抱えながらもまともな就職先につけないという不幸な学生の数を減らすことにもつながる。
有利子型奨学金事業は、停止し、民間に委ねる。
前述のとおりである。民間で提供可能なサービスをわざわざ非効率な体制で公的機関が実施する必要はない。ましてや、日本国の財政状況はますます厳しくなっていくことは確実なのだから、公的機関が担う範囲は可能な限りスリム化させていくべきである。